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心の回診

第一〇〇回

暮れも押し迫った仕事納めの日、私は病棟の入院患者さんに逢いに行きました。どの病棟にも趣向を凝らした〆飾りが、ナースステーションの入口に、病 室のドアに飾られて、新年を迎える雰囲気が漂っていました。すべての患者さんをお見舞いする事はできませんでしたが、病状が安定している患者さんのベッド サイドで暮れのお見舞いのご挨拶を交わして、心が満たされる時間でした。

私が理事長の中山と分かって下さると、必死で半身を起こして、挨拶をして下さる律儀な患者さん。お正月に外泊許可の出た患者さんは、もう嬉しくて血圧が上がるのではないか、どうかドクターストップがかからないでほしいと、ハラハラしたりもしました。
また反対に深刻な場面にも遭遇しました。お正月に三ヶ日外泊できる筈だったのに家族の事情で「二日間で我慢して下さい」と頭を下げる お嫁さんに、「承服しかねる」と頑として譲らないYお舅さん。仲に入って「次の機会を楽しみに…」と説得するも、此の日を待ち焦がれていたY男さんは素直 に折れる事ができないのです。我が儘を百も承知の上で、「分った」と言えない落胆ぶりが切ない程伝わって来て、私も半べその状態になりました。結局Y男さ んは中山の顔を立てると言う事で、渋々納得されたのです。重い心で廊下を歩きながら釧路の母を想いました。母は、グループホームでどんなお正月を迎えるの だろう…。私こそ身軽な体、気持ちがあれば母を迎えに行けた筈だ…でも私は自分がゆっくりお正月休みができる方を選んだのです。罪悪感で胸がキリキリ痛 い…。「私って親不孝だよね?」すると娘が「親孝行にもいろいろな形があるから…体は一つ、娘が健康でいるのも親孝行だよ」なる程、この言葉に罪悪感が薄 れて楽になれました。
なんと、この原稿は記念すべき百号。読者の皆さんのお陰です。万歳!