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心の回診

第一四九回

第十四九回 「病院行事の豆まきの日…」

病院行事の豆まきの日、私は赤鬼の親分になって、パウロ病院と関連施設10ヵ所を暴れ回って来た。でっかいゴールドのブラジャー、赤い上下の鬼の衣装。看護部長、事務長も鬼らしく工夫を凝らしているが、私にはかなわない。手に豆のかわりに投げる紙玉を握った病衣姿の患者さん達が、車椅子に座って、「鬼、遅し!!」と待ちかまえていた。「鬼だよおーッ」と鬼が乱入する。「ウワーッ!!」患者さんと施設の利用者さんの歓声が上がった。鬼は雄叫びを上げて、金のハンマーを振り回してホールを走り回った。時々、明らかに親分を狙った紙玉が、顔面に飛んで来る。「痛い!!やったな!!」おっぱいを揺らして追いかけると「ゴメンネ、痛かったしょ?アハハ、ハハハ」と笑いこけていた。みんな、患者である事を忘れていたみたい。
昔、「病院が何故こんな事をするのか?」と退職した職員がいた。「入院されている患者さんの命が楽しい命であってほしいから」と胸を張って答えた。一日、ただ、天井を眺めて回診の医者を待ち、三度の食事を食べさせてもらい、おむつを替えてもらって、寂しい夜が来る。患者さんはわがまゝを言わない。「今日の夜御飯、如何でしたか?」ベッドサイドを回って歩くと、「おかゆさんがおいしく炊けていたよ」と感謝の言葉を言ってくれる。
詩人の星野富弘さんの詩に「命より大切なもの」と言う詩がある。今日も読んでみた。…今が一番大切だと思っていた頃/生きるのが苦しかった/命より大切なものがあると知った日/生きるのが嬉しかった…此の詩を知った時、意味が理解できなかった。一生懸命考えてみた。考えている内に、人から答をもらうのではなく、自分が見つけてゆくものなのだと、やっと気がついた。ただ、無意味に生きている自分ではなく、生きて行く事ができる自分に気がつく事が大切なのだと。「神様、ありがとう」と思った。

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