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心の回診

第一六〇回

 私はどうかしてしまったのだろうか?「まんまる新聞」の担当さんから、心の回診の原稿催促の電話が来て、口から心臓が飛び出る位に驚いた。原稿が出来ていない。書かねばならないと確かにあせっていたのに、期日迄に間に合わす事が出来なかった。
  何故?お世話になって来た大切な税理士の先生が亡くなって、悲しみと、途方に暮れていた事もある。恒例のパウロ劇団の台本を仕上げなければならないのに、遅れて、看護部長に助けてもらった。
  心が萎えているのに、待ったなしで次々とやらなければならない事が出てきた。そこにきて、「心の回診」の原稿が、スッポリ抜けていた。あゝ万事キュースだ!!
  その時だった。スルスルと女神様が「修子さん、落ち着きなさい」と降りて来て下さったように思ったのだ。タイトルさえ決まれば私は書ける…と自分に言った。目の前の書棚に目を移すと、相田みつをさんの本がある。私は期待をこめて、頁をめくった。其処には力強い筆文字で「なまけると、アトリエの空気がよどむ。筆を持つと、自分の力のなさがよくわかる」みつを、とあった。
  不思議な事に、乱れに乱れていた私の心臓の音が少しずつだけど落ち着いて来た。そして、同時に心が静かになった。
  私はカトリックの洗礼に授かっていて、日曜日に教会に行くが、此の日、此の時は、イエス様ではなく、観音様が優しいお顔で私の側に降りてきて下さっていると感じた。観音様が、何もかも承知の上で見ていてくださっている。「修子よ、言い訳などするのじゃない。素直に反省すれば良い」私は赤子の様に泣きたくなった。言い訳してごめんなさいと。
  思えば、宿題をしない幼い娘、息子をよく叱った私。その子供達が今は私を助けてくれる。私を守ってくれている。あゝ、なんて有り難いことでしょう。