トップへ

心の回診

第一五五回

「少年よ大志を抱け」と言う言葉があります。「知っている」「どこかで聞いた言葉」としても、記憶にあると思います。明治時代、札幌農学校でキリスト教の信仰に基づく教育を若者にしたクラーク博士の言葉です。此の言葉を私は長い事、「少年達よ、大きな夢と、野心、向上心を持って広い世界に羽ばたいて行きなさい」と言う意味、教えだと思い込んでいましたが、随分あとになって、全く違う意味である事を知りました。
「少年よ、大志を抱け」の真の意味は、人間として、当然備えなければならないあらゆる大切なものを身につけるためには「大志」、大きな志を持ちなさい。金銭や、自分の欲、我欲のためであったり、名声を得たいと言う空しいものであってはならない…だと言うのです。
昔読んだある書物にこう紹介されていました。――少年よ、大志を抱け。しかし、金を求める大志であってはならない。利己心を求める大志であってはならない。名声という、つかの間のものを求める大志であってはならない。人間としてあるべきすべてのものを求める大志を抱きたまえ――。
つまり、お金や名誉ではなく、高潔な人間になることを、志しなさいと言う意味だったのです。それを知った時、私は、まさに目からウロコ、自分の心の曇っていた部分、何かゞ剥がれ落ちて行くような思いがしました。「そうだったのか…」と言う思いでした。
他人に勝つこと、社会的な名声、お金を得る事、子供達にも、運動会で早く走る事、勉強のできる子に。…時として、そんな“大志”“夢”を思ってしまいますが、大切な夢は、決してそう言うことばかりではないのです。
植物が種子(たね)から芽吹き、やがて花が咲きます。しかし、咲くまでは、花がどのように花開くかはわからない。夢も同じです。夢はいつまでも持ち続けたいですね。