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心の回診

第一三十回

心の回診の原稿を書く事を忘れていた訳ではないのです。「今日こそ」と思いながら歯車が狂って行きました。まんまる新聞さんに駄目を知りつゝ〆切り日を確認しました。「〆切り日は明日です」とダメ押しをされました。さあ、根性をいれて書こう!と思いました。

髙校生の制服が夏色に変わっています。私が髙校生の頃の制服は、白線が3本線の セーラ服でした。初夏に入り白のセーラ服に変ります。私の青春は初恋も含めて釧路の髙校時代だった様な気がします。街も太平洋炭鉱があり、鮭・さんまが大 量に揚がり活気のある豊かな街でした。
髙3の時のある日、学校の帰りの幣舞橋が映画の撮影場所になって賑わっていました。原田康子さんの小説「晩歌」が映画化され、ヒロイ ンは久我美子、中年の不倫相手は森雅之さん。連日ロケがあり、制服姿のまゝ映画ロケに夢中になっていました。そんな私に監督さんが「映画に出て見ない か?」と声をかけてくれたのです。「父に聞いてみます!!」と家に飛んで帰りました。父は歯科医院を開業していました。技巧室で背中を丸くして入れ歯を 作っている父に「スカウトされた!!映画に出て見ないかだって!!出ていい?」その時父が言った一言、「馬鹿者!勉強しろ!!」この一言で映画女優の夢 は、シャボン玉のように儚く消えて行きました。
時々私は、母に逢いに釧路に帰ります。幣舞橋を通る時は「挽歌」を思い出します。そして父の「馬鹿者!!」の一言がなければ、私は有頂天になったまゝ、現在(いま)の幸せな生活を得ることはなかったでしょう。
「おとうさん、本当にありがとうね。よくバカモノ!!って叱られたあのひと言、素直に聞いてよかったよ。道を間違えそうになった時は、馬鹿者!!ってカツを入れてね。私、お父さんが好きだったんだよ。」