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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第九十二回 (2008年5月)

 桜の季節になると落ち着かなくなる。桜が大好きになったのは夫が肺癌で逝ってからだ。彼は癌告知を自分で我が胸に宣告し「俺はそう長くないな」と言った。本当にその言葉通り64歳で逝った。

 あの日から15年の歳月が過ぎた。生きている者にとっての時の流れはなんと早いのだろう・・・。「すまないな」と彼は私に謝り、最期の言葉は「お前はやって行けるか?」とパウロ病院を私に託したが「やって行けない」と泣いた。「がんばるよ」と安心させて上げられなかった。 

 未だ癌が巣喰っている事など夢にも思っていなかった春、「桜を見に行こう」と彼が誘ってくれた。なのに私は行かなかった。二人で見る最期の桜だったのに、私は素直に行かなかった。断る理由なんて何ひとつなかったのに行かなかった・・・。

 あの時は、桜は桜の季節になると必ず咲く花に過ぎなかったのだ。桜がこんなに美しく、儚い命だった事を見過ごしていた自分を責め、後悔した。ごめんね・・・。

 そして現在(いま)は、毎年桜の季節になると落ち着かず、桜が見たくて桜を追いかける。桜に重ねて自分の生き方を思う。

 この頃不思議に思う事のなんと多い事よ。自分がこの世に生れて、存在している事が不思議でならない。 

 キリスト教の洗礼を受けて、イエス様に祈りながら、毎朝毎夜仏壇の仏様の手を合わせ「行ってきます」と今日一日の幸せを祈り、夜には「おやすみなさい」と無事過ごせた事に感謝する。困った時の神頼み、八百万の神様は笑って私の身勝手を許して下さるだろうか。

 ”心の回診”が書けなくて、今月号ものたうち回って苦しんだ。パニックにおちついている。なのに好きな事は寝る間も惜しんで、粘土の花造りに熱中する。そんな事やっている場合じゃないだろう!?分かっている・・・と自問自答。だから人生面白いのだよ。


(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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