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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第八十七回 (2007年12月)

 初雪が降った朝、病院前のナナカマドの実が沢山落ちていた。

 患者さんに見せてあげたい・・・と思った。

 全ての患者さんに届けて上げることはできないが、最近入院したばかりのA子さんが淋しがっていた事を思い出した。A子さんは両手の中に赤い実を宝石の様に持ち、目を大きく開けて「きれい・・・」と喜んでくれた。

  2人目はミチ子さんの所へ行く。365日御主人がお見舞いに来られて、職員のケアの良さと御 主人の優しさに磨かれてミチ子さんはピカピカだ。回診前のひとときスヤスヤと眠っていた。しのび足でナナカマドを床頭台の上に置いて来た。

 暫くして部屋のドアが「トントン」とノックされる。

 「どなた?」と顔を出すと、御主人の満面の笑み、お皿の上には一口大のチョコレートが数枚乗っかっている。

 「妻の介護で疲れる時に食べるチョコ。会長さんも一つ」との事。

 嬉しくて遠慮なく頂いた。甘くてハートにしみて行った。

  25年前、パウロ病院開院当時、私は自分の成すべき役が解らずに悩んでいた。しかし、目からう ろこが落ちる日がやって来た。病棟を歩いていたら認知症の患者さんが不穏になり、師長の言う事も他の誰の言葉にも耳を貸さない。「殺せ!」「殺せ!」と叫んでいた。

 何が出来るという自信があった訳ではなかったが「まかせてみて?」と師長に目で合図をし、車椅子のおばあちゃん患者さんと院庭に出た。藤の花が咲き、マリア様の御像が私達を見ていた。

 「兎追いしかの山、いかにおはす父、母・・・」と歌っていたら「父、母」の箇所でおばあちゃんが涙を拭いていた。

 私を見上げて「かあさん!」呼んでくれた。不穏な表情が消えていた。患者さんを抱いて私も泣いた。これでいいのだ・・・気負う事はない・・・この患者さんが私の原点です。

 「回診を読んでますよ」の声を沢山いただきました。有難うございました。感謝です。


(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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