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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第六十八回

 五日の子供の日の事、乗り合わせたタクシーの中から桜を発見した。思わず「桜!」と声に出したら、運転手さんが「今、ラジオで札幌で一番早い桜を紹介していたのがこの桜ですよ」と教えてくれた。

 待ち焦がれていた春だ。パウロ病院の中庭には10メートルの大きな4匹の鯉のぼりが、五月の風をお腹いっぱいに吸い込んで元気に泳いでいる。「会長さん、随分張り込んで、でっかい鯉のぼり買ったね」と患者さんの家族が言った。「鯉のぼり元気な姿を見て、患者さんにも元気になってほしいから」と私。病室の窓辺に車椅子の患者さんと並んで同じ目の高さで鯉のぼりを眺めていたら「昔は、いかったな…」と患者さんが言う。

 そういえばこの頃、街にも住宅地にも鯉のぼりを見かけなくなった。春を待ちかねて外遊びに興じる子供の姿を見た事がない。いつの間にか日本の国がおかしくなって来ているのではないかしら?子供が平然と人を殺す。大人が起こす事件の異常さもエスカレートしていく一方だ。

 時間と経済的な豊かさは、子供を育て守っていかなければならない私達の大人の大切なものを忘れさせてしまっている。

 町内に必ずいた子供を叱ってくれる小父さん、小母さんもいない。いたとしてもこのご時勢だ。「子供を叱ってくれてありがとう」なんて思う親がいるだろうか?逆恨みされてどんな事件に巻き込まれるか知れないゆ歪んだ社会になってしまった。悪いことをしそうになったとき「これ以上行ってはいけない]と踏みとどまる良心。そこには難しい教育も道徳も要らない。誰も見ていないけどお天道様、神様が見ている。「母ちゃんが悲しむからやめよう。」そうやって私たちは、悪い心と戦って道を外れないで歩いてきた。「昔は、いかった…」患者さんの言葉が胸にしみる。

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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