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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第五十八回

 今日も一日が無事に終わった。厚別の南郷通りを走る車の中にいる。目の前に、日没前の燃えるような真赤な太陽が、私を見送ってくれるかのように西の彼方に沈んでいくところだった。言葉もなにもいらない。尊厳な太陽の姿に頭(こうべ)を垂れて手を合わせたい衝動に駆られた。毎日のこの景色、日々決して同じ姿はない。

 雲一つを見ても、5分もするとあっという間に形を変えてしまう。今日は、天国の階段を登って行くかのような雲を見た。「見て!?」隣の席の娘に指をさして教えると娘も同じ雲を眺めていた。「綺麗だね。誰も気付かないで歩いているね?」と娘。本当だ、家路を急ぐ足は皆んな忙しそうで、真赤な太陽も美しい雲も見過ごしているみたいだった。「勿体ないね」と娘が言う。勿体ない…そう言えば私達は日常の生活の中で、随分と勿体ない生き方をしているような気がする。神様は、全ての人に自然の移ろい、美しさを与えて下さっているに、見過ごしてしまっている事が多いような気がする。「勿体ないは日本にしかない言葉なんだって。外国の言葉では、勿体ないを表現できる単語がないのだって。素晴らしい言葉を持っている日本の若者達も、勿体ないという言葉を使わない。真の意味を知らない世代になってきたんだって−よその先進国の首相が勿体ない運動をはじめたそうだよ。」と娘の熱い言葉が続く。インタビューされた若者の一人は「何が勿体ないのか分からない」と答えたのだそうだ。

 そう言えば、私も母に”勿体ない”のいろいろな事を教わって来た。電気のつけっ放し、水道の水の流しっ放し、御飯粒一粒も粗末にしない、お鍋の底のおこげのおにぎりの味が恋しくも懐かしい。健気に咲く、野の花や草にもしっかり目を向けてあげないと、見過ごしたりする生き方は勿体ないよね。

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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