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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第五十二回

 患者さんに関わる仕事を長く続けていると、時々魂が震える様な不思議な体験をする時がある。病室を回っていて戸口の所で振り返った時、合掌して挨拶をして下さった患者さんがいた。翌日その患者さんは亡くなった。

 平成17年の年が明けて早々、私はある患者さんの事が気になって仕方なかった。お正月の七草が過ぎるのを待って、私は導かれる様に電話をかけた。新年早々失礼になるかも知れない事を詫びながら、娘さんに「お父さんはお元気ですか?」と尋ねると、「12月28日に亡くなったの」と言う。「やっぱり…」。

 自責と後悔の念が押し寄せて涙が溢れて来た。パウロ病院から他の病院に転院して行った矢武信雄さん(98歳)は、心の中に忘れられない患者さんだった。退院していく時「お手紙書きますから」と約束したのに、私はその約束を果たしていなかった。忙しい事を理由にして大切な心を忘れてしまっていた。取り返しのつかない結果になってしまった。約束を守れなかった事をお詫びすると、「父はパウロ病院が大好きで、修子さんの事が日記にいっぱい書いてあった」と娘さん。悔やみきれない涙が込み上げて来る。

 初夏のある日、入院して間もない矢武さんが車椅子に乗って黄色いマルメロの実を届けてくれた。「部屋に置いときなさい。いい香りがするから」。父を早くに亡くした私は、柔和な顔に懐かしいものを感じた。矢武さんも、私を娘の様に慕ってくれた。病棟に上がって行くと車椅子の上から、おいで、おいでをして呼んでくれたっけ…。

 患者さんは入院という入り口があって出口は三つある。1.元気になって退院 2.他の病院、施設へ 3.大往生。人間の死には良い死もあれば悲しい死もある。自分で選ぶ事の出来ない人生の縮図だ。最期を良い死で終える事の出来る人は、神様から御褒美を頂けた人だ。モナリザよりも美しいお顔だったと矢武さん。「お手紙の約束守れなくて本当にごめんなさい。可愛いがって頂いて有難うございました」。合掌。

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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