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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第四十七回

 何度か、「心の回診」に書かせて頂いた事のある母の事を、読者の方が「お母さんはお元気ですか?」と心配して下さる。週末の休みを利用してその釧路の母に会いに行って来た。数日前から行くことを伝え、前の日にも「明日行くからね!」と伝えた。母の声はいつもの何倍もトーンの高い声で、「待っているから!」と小鳥のように嬉しそうだった。

 朝一番の特急に乗って、早る心で母の家に着いた。ところが何度チャイムを押しても応答がない。「全くもう!待ってるって言ったのに」。探し廻ってようやく鍵の隠し場所を見つけた時には安堵で泣きたくなった。ヘルパーさんの援助を受けている家の中はどこも綺麗に片付いている。なんと母は朝風呂に入っていたのだ。居間でポツンと待っていた私を見て「まあ、来るなら来るって言ってちょうだいよ!」目を丸くして驚いている。よかった・・・私の事を忘れていない。

 母の行動を見ていると可笑しくてやがて切なくなって来る。お土産のゼリーもお茶もラベンダー色のセエターも、みんな高い所に隠している。理由はヘルパーさんに‘盗られる‘から。「ごめんなさいね」私は心の中でヘルパーさんに詫びた。

 母の痴呆が始まったのは、一番近くにいる私の妹を犯人扱いい始めた時だ。お金がなくなるのも洋服がなくなるのも犯人は妹、そして不思議な事にそれ等は決して出て来ない。きっと母には秘密のアジトがあって、いつかそこからガッポリ大金が出て来るのでは?と思っているのだが。

 忙しい生活から離れて母とゆっくり向き合う時間はある意味贅沢な時間でもあった。繰り返し孫の近況を聞く母にも優しく対応できる。だって2泊3日の親孝行だもの。これが24時間365日続いたら、間違いなく優しさは消えて行く。母の手を引いて買い物に出た。母が痛い程私の手を握ってすがっている。私も母の手にしがみついていた幼い日があったっけ・・・。

「又来るからね、お母さん。」

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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