第四十六回
老いと言うのは、容姿が衰える事よりむしろ、心が衰える事ではないだろうか。何をやっても自信が持てなくなり悲観的になり、それを全て年のせいにしてしまう。でも心の持ち方で元気と若さは保てると思うのだ。
そのお手本とも言うべき、実に心の若いN男さんが、91歳の誕生日をパウロ病院の病室で迎えた。N男さんが、今抱えている悩みは、退院した時に身の回わりの世話をしてくれる女性がいないと言う事だ(ご長男の優しいお嫁さんがいるのに)。自分の花嫁候補にN男さんは、看護師のF子と、違う病棟のT子さんと言う患者さんを選んだ。2人は同じ車椅子同志。家族に車椅子を押してもらって院庭を散歩していた時の出会いらしい。
夕方、何時ものように病棟を回っていたら、N男さんがお見舞いに来たお嫁さんに、「結婚の申し込みをしたいので師長に挨拶に行って来て欲しい」と懇願している所であった。T子さんは辞めてどうもF子に絞ったようだ。笑っちゃいけないと思いながら私は声を上げて笑ってしまった。「嫌ですねエ、会長さん。これって色呆けでしょうか?」、お嫁さんは鶯のような綺麗な声で真剣に困っている。「とってもいい事だと思いますよ。お舅さん表情がいきいきしていますよね。生涯現役で女性に興味が持てると言う事は、生きる大きな希望になっていると思いますよ」、私達の会話が聞こえていないのか、N男さんは熱心に黒皮の手帳に、結婚式の招待客のリストを書き込んでいた。故郷(ふるさと)の旭川の教会で式を挙げたいと言っていた。
「N男さん、この縁談まとまるといいですね?結婚式には私も呼んでね?」N男さんは「もちろんですよ!」と嬉しそうだった。それから数日して難題が持ち上がった。第1候補のF子が、N男さんのプロポーズに対して、「パウロ病院の退職まであと7年あるの。それまで待っていてほしい」と答えたそうなのだ。
7年か・・・。7年は長いぞ。N男さん頑張れ!!雲ひとつない真っ青な空が「文句あるかツ!!」とばかりに元気に笑っていた。
(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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