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エッセイ心の回診〜また明日ね〜


第四十四回

 一年を通じて、一番好きな季節が巡って来た。七条橋を曲がって右手に豊平川を見ながら車窓から眺める風景・・・。柳の芽が一斉に芽吹き若草色に燃えている。私はこの色を「春色」と名付けて、巡り来る美しい季節を迎えられた事に感謝する。目の奥まで緑に染まりそうな安らぎの中で、たった今し方の小さな出来事で私の心は満たされていた。

 それは、買い物を終わってMデパートの出口の重いガラス戸を押した瞬間の出来事だった。私の後ろに白杖を手にした若い女性がいる事に気がついた。私はこの女性のためにドアを力一杯開いた状態で待った。所が人の波は白杖の人の事など目に入らぬかのように、切れ間なく押し寄せては掃き出されて行く。何たる事!私はドアガール(?)のようにドアを押さえたまま成す術がない。その時だった。一人の青年が女性の介添えをして一緒に外に出てくれた。「助かりました。有難うございました。」白杖の女性は深く頭を下げて去って行った。「いいえ」と、白い歯を見せた茶髪の青年の優しさがそよ風のように清々しかった。私も自分が助けられたかのように嬉しくて、「有り難う」と頭を下げた。人の情けのなさに本当は憤っていた筈なのに何故か3人とも笑顔で別れた。それは、「有り難う」のお陰だ。有り難うという言葉は不思議なエネルギー、大きな力を持っている。誰の心をも明るくするそんな言葉の代表が「有り難う」だ。言った人も言われた人も自然と笑顔になってしまう言葉。そう言えば、患者さんの中でも沢山の人に愛され家族に大切にされて幸せそうな人は、「有り難う」の表現の上手な人だ。病気の後遺症で言葉が不自由になったとしても、まばたきで、口元で、ある時は両手を合せて「有り難う」をできるだけでどれほど幸せな生涯になるか計り知れない。

 私も病気になって全ての機能が劣えてしまっても、どうか、有り難うの言葉だけは忘れませんように・・・そんな事を考えている内に車は真駒内の自宅に着いた。白杖のあの人も無事に目的地に着いたかな?あの青年はどうしているだろうか?今日は本当に有り難う!

皆さんも今日は何回、有り難うが言えるでしょうか?

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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