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第四十三回

 春ですよ...そんな季節の変わり目の暖かな日、私は入居者27名分のおやつと、桜の絵柄の絵葉書に手紙を書いて大きなバスケットに詰め、パウロ病院に隣接しているグループホーム「春桜」に遊びに行った。突然の訪問者に皆が目を丸くして歓迎してくれた。ホームの中にはオルゴールの音(ね)も優しいBGMが流れ、入居者の人達が思い思いの姿で寛いでいた。テレビを見ている人、気持ちよさそうに居眠りをしている人もいる。キミさんがモヤシの小さなひげ根を根気よくきれいにしていた。「晩ご飯のご馳走の準備ですか?」「そうですよ」。大切な仕事をまかされたキミさんはとても満足そうだった。

 かたわらの定子さんが私を思い出してくれたようで「懐かしい人が来た」と泣いて喜んでくれた。ホームに集まってきた皆と話が弾み笑いの輪が広がって行った。一人一人に書いてきた絵葉書を「○○さん、お元気ですか?」と朗読を始めると「元気だよ」と返事が返って来る。「ふきのとうが芽を出しましたよ」。すると「ヘエーッ!!」と驚いてくれる。「これからも元気でお過ごし下さいね!!」「あんたも達者でいなさい」。スタッフの入れてくれたココアを一緒に飲みながらいつの間にか時を忘れていた。皆を慰めに来たはずなのに癒されている私に気がついた。

 高齢者の幸せとか希望は、本当にささやかなところにある。すぐ叶えてあげられる事の方が多いものだ。例えば、食欲があろうがなかろうが、決められた時間毎に出される食事は時に苦痛なもの、その人の身になって考える事が大切だ。徘徊にしても意味なく徘徊するのではなく、気持ちを分かってもらえないから動き始めるのだ。その行動には一つ一つ意味があって、力が弱くなった人の精いっぱいの意思表示と理解し、受け止めてあげたい。痴呆だから徘徊する...の発想だけでは何も生まれない。その人の目線で日々の生活を見直せば必ず解決策は見出せるに違いない。気がつけば楽しい時間は瞬くまに予定の時刻を過ぎていた。最後まで見送ってくれたトシ子さんが、エレベーターの中の私の姿が消える瞬間、精いっぱいの背伸びをし、バレリーナのように爪先立ちした顔が泣いていた。お母さんのような優しい姿に、最近疲れていた私の心が丸くなった。

(医療法人中山会新札幌パウロ病院会長)
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