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心の回診

第一五一回

医療の仕事に携わる私達は、患者さん、利用者さんに対して「ガンバレ」と言う言葉を多く使います。例えば、「頑張って病気を治しましょう」「リハビリを頑張って、退院できるようになりましょう」患者さんはスタッフから「頑張れ」「頑張れ」と言われます。家族も同じです。「頑張らないと、退院できないよ」「歩けないと、家にもどっても、面倒見れないからね」などゞ、励ましの筈の言葉が、時には辛い言葉になっているかも知れません。
高校3年生のK君は、体の倦怠感を訴えるようになり、大学病院で精密検査を受けました。病名は「悪性のリンパ腫」と診断されました。抗癌剤による化学療法で、一時的に状態が良くなって行ったそうです。
K君は嬉しかった。早く学校に行けるようになって、友達に逢いたいと思いました。
しかし、担当の先生から両親には、「治ってきているように見えるが、一時的なもので、病気は進行している。完治する事は困難。余命は六ヶ月」と告知されていました。
「家に帰りたい」と言うK君の強い願いは叶えられて、在宅で定期的に通院しながら、びわの生薬、カキ貝のエキス、漢方薬など、よいと言うもの、効くというもの、助かると、すゝめられるもの、全てを信じ、すがる思いで続けました。
それからある日、K君のおとうさんは決心しました。担当医から告知されたことを、真実を、K君に伝えました。父親のつとめだと思ったそうです。
K君は自分の部屋にこもり、暫くの間、誰とも口をきかなかったそうです、夕方六時、目を泣き腫らしたK君が姿を見せ、「母さん、風呂へ入りたい」と言い、そして「俺は、現代(いま)の医学を選ぶよ。負けないから」それから一ヶ月後、K君の詩が遺されていました。
神様が僕を選んだのだ/神様が僕を見ていてくれる/だから、僕は頑張れる――。合掌